
次世代バッテリー革命:全固体電池とエネルギー貯蔵が切り拓く2兆ドル市場への投資戦略
2026年、エネルギー貯蔵市場は重要な転換点を迎えつつある。全固体電池は一部用途で限定的な商用投入が始まる可能性があり、ナトリウムイオン電池の大規模展開が視野に入る中、グリッドスケール蓄電池市場は年間20%超の成長率で拡大を続けている。本稿では、この構造的変化がもたらすビジネス機会と投資の着眼点を、統計データと企業発表を峻別しながら分析する。
本稿の投資仮説
仮説1:BESS収益構造は「電力アービトラージ」から「系統安定化サービス+ソフトウェア最適化」へ移行する。単純なコスト競争から技術的差別化競争へのシフトが、参入障壁と収益性を変える。
仮説2:次世代電池(全固体・ナトリウムイオン)は、量産EVより先に「特定用途(二輪車・特殊車両・定置型貯蔵)」で立ち上がる。2026–2028年はこれらニッチ市場での実証が投資判断の分水嶺となる。
本稿で使用する主要用語
- Wh/kg(重量エネルギー密度)
- バッテリー1kgあたりの蓄電容量。車両の軽量化・航続距離延長に直結する指標。
- Wh/L(体積エネルギー密度)
- バッテリー1Lあたりの蓄電容量。車内スペースや設備の省スペース化に効く指標。両者は比較軸が異なるため、同一単位での比較が必須。
- アンシラリーサービス
- 周波数調整・電圧制御など、電力系統を安定化させるサービス。再エネ比率上昇に伴い需要増。ソフトウェア制御能力が差別化要因となる。
- グリッドフォーミング
- インバータが系統の電圧・周波数の「基準」を自ら作り出す機能。従来型(グリッドフォロイング)は既存系統に追従するのみ。再エネ比率が高い系統では不可欠な技術。
- FEOC(Foreign Entity of Concern)
- 米国IRA法における「懸念対象外国企業」規定。2026年以降、FEOC関連部材を含むBESSは税額控除(ITC)の適格性を失う可能性がある。
1. 市場の現状と構造的課題:なぜ今、次世代バッテリーなのか
世界のエネルギーシステムは、かつてない規模の構造転換を経験している。BloombergNEF(BNEF)の推計によれば、2025年のグローバルエネルギー貯蔵導入量は92GW・247GWhに達し、前年比約23%の増加を記録した統計推計。この数字は、わずか2年前の2023年(44GW)と比較して2倍以上の規模である。
※市場規模は調査機関により定義(セルのみ/システム込み/地域範囲)が異なり、$100億〜$440億の幅がある。本稿では導入量(GW/GWh)を主たる成長指標として使用する。
しかし、この急成長の裏側には、既存技術の限界という構造的課題が横たわっている。現行の主流であるリチウムイオン電池(LFP/NMC)は、以下の3つの本質的な制約に直面している。
エネルギー密度の物理的限界
従来型リチウムイオン電池のエネルギー密度は、重量ベースで200〜300Wh/kg、体積ベースで250〜700Wh/L程度で成熟期に入っている。液体電解質を用いる構造上、これ以上の大幅な密度向上は困難であり、EV航続距離延長やグリッド貯蔵の空間効率改善に限界をもたらしている。
安全性リスクと規制強化
リチウムイオン電池の熱暴走(サーマルランナウェイ)リスクは、大規模蓄電施設の立地選定において深刻な制約となっている。米国では複数の自治体がリチウムベースの大規模蓄電設備に対する規制を強化しており、データセンター、商業施設、住宅地近傍での設置が困難になりつつある。
サプライチェーンの地政学的脆弱性
IEAの分析によれば、世界の電池生産能力の4分の3超は中国に集中している統計。リチウム精製においても同国が支配的なシェアを持つ。この偏在構造は、地政学的緊張の高まりとともに、西側諸国のエネルギー安全保障上の重大な懸念事項となっている。
これらの構造的課題を解決する技術として、全固体電池(All-Solid-State Battery: ASSB)とナトリウムイオン電池(Sodium-ion Battery: SIB)が商用化目前の段階に達している。2026年は、これら次世代技術の実用性が実証される重要な年となる見込みである。
2. 新しいモデルの分析:全固体電池とナトリウムイオン電池の革新性
全固体電池(ASSB):EVとモビリティの次世代候補
全固体電池は、従来の液体電解質を固体電解質に置き換えることで、エネルギー密度、安全性、充電速度のすべてにおいて飛躍的な性能向上を目指す技術である。
全固体電池の技術的優位性(理論値・開発中スペック)
エネルギー密度:QuantumScapeのQSE-5セルは体積密度844Wh/L、重量密度301Wh/kgを達成企業発表。体積密度では高性能Li-ion(250〜700Wh/L帯)を上回り、重量密度では上位Li-ion(250〜300Wh/kg)と同等〜やや上回る水準。
充電速度:QuantumScape QSE-5は10%から80%まで約12分で充電可能と発表企業発表。Rimac Technology×ProLogiumの次世代パック(2027年頃投入見込み)は同区間を約6.5分とする報道ありメディア報道。
サイクル寿命:QuantumScape QSE-5は1,000サイクル後も95%超の容量維持と発表企業発表。フィンランドDonut Labは約10万サイクルの寿命を主張企業発表・未検証。
温度耐性:各社とも-30℃から高温域までの広範な動作温度範囲を主張。ただし量産環境での検証は今後。
※上記性能値は主に企業発表・プレスリリースに基づく。量産品での実測値、長期耐久性、コスト競争力は2026〜2028年の実証フェーズで明らかになる。
全固体電池の市場規模は、一部調査機関の推計では2026年の約23億ドルから2035年には約277億ドルへと、年平均38%程度の成長率で拡大すると予測されている市場調査。ただし、これは商用化が順調に進んだ場合のシナリオであり、技術・コスト課題の克服が前提となる。
| 企業 | 技術アプローチ | 開発段階・目標時期 | 特記事項 |
|---|---|---|---|
| Toyota / Idemitsu | 硫化物系固体電解質 | 2027-2028年(初期商用化目標) | Idemitsuが142億円投資でリチウム硫化物工場建設企業発表 |
| QuantumScape / VW | セラミックセパレーター | 2026年(パイロットライン稼働) | QSE-5で844Wh/L・301Wh/kg達成。Eagle Line施設は2026年2月に式典/イベント予定企業発表 |
| Factorial / Mercedes-Benz / Stellantis | FEST(半固体) | 2026年(デモ車両)、2027年以降(商用化目標) | Mercedes EQSが749マイル(1,200km)走行を実証メディア報道 |
| Samsung SDI | 硫化物系(S-Line) | 2027年(量産開始目標) | 900Wh/Lアノードレス構造を開発中企業発表 |
| CATL / BYD | 硫化物系 | 2027年(小規模生産)、2030年頃(量産化目標) | 中国国家規格策定にも関与メディア報道 |
| Donut Lab(フィンランド) | 独自技術 | 2026年Q1(生産開始を主張) | Verge Motorcyclesに搭載予定と発表企業発表・第三者検証待ち |
ナトリウムイオン電池(SIB):コスト革命とサプライチェーン多様化
ナトリウムイオン電池は、リチウムの代わりに地球上に豊富に存在するナトリウムを使用することで、コスト削減と地政学的リスク低減を同時に実現する技術である。CATLは2026年を「ナトリウムとリチウムが共に輝く双星の年」と位置づけ、大規模商用展開を開始すると発表した企業発表。
ナトリウムイオン電池の競争優位性
原材料コスト:ナトリウムはリチウムと比較して圧倒的に安価で、地球上に広く分布。サプライチェーンの地政学的リスクを大幅に低減。
低温性能:CATLのNaxtraは-40℃から70℃の動作温度範囲を実現企業発表。寒冷地でのリチウムイオン電池の性能劣化問題を解消。
安全性:熱暴走リスクが相対的に低く、より安定した電気化学特性を持つ。都市部・住宅近傍での設置規制緩和に寄与する可能性。
セル価格見通し:IRENAはSIBセル価格が将来的に40ドル/kWhまで低下する可能性を示唆機関レポート。ただし現時点ではLFPとの本格的なコスト競争力は確立途上。
CATLのナトリウムイオン電池ブランド「Naxtra」は、エネルギー密度175Wh/kgを達成し、乗用車で500km以上の航続距離を実現すると発表企業発表。中国の新国家規格GB 38031-2025の認証を世界で初めて取得し、2026年7月の規格施行に先立って商用展開の準備を整えている。
3. 具体的な仕組みの解説:技術が生み出す参入障壁と競争優位性
全固体電池の製造プロセスと参入障壁
全固体電池の商用化には、従来のリチウムイオン電池とは根本的に異なる製造プロセスが必要となる。これが新規参入者にとっての高い障壁を形成すると同時に、先行者には持続的な競争優位性をもたらす可能性がある。
硫化物系(Li₆PS₅Cl等)または酸化物系(LLZO等)の固体電解質材料を高純度で大量生産する能力が必要。Idemitsuはトヨタ向けにリチウム硫化物プラントを建設中で、2027-2028年の量産開始を目指す企業発表。
固体電解質と電極材料の界面における接触抵抗の低減が最大の技術課題。各社が独自の界面処理技術を開発しており、これが差別化要因となる。
従来の湿式コーティングプロセスではなく、ドライ電極製造技術が全固体電池の量産化に不可欠。Nissanは米LiCAP Technologiesと提携し、ドライカソード電極製造技術を開発中企業発表。
ラボスケールの成功を量産ラインへ移行する際の歩留まり向上とコスト削減が鍵。2026年は各社が0.1-0.5GWhのパイロットラインを稼働させ、自動車メーカー向けの認定試験用バッテリーを生産する段階に入る見込み。
エネルギー貯蔵システムのバリューチェーン構造
グリッドスケールBESS市場は、セル製造から運用最適化まで多層的なバリューチェーンを形成しており、各レイヤーに異なるビジネス機会が存在する。
| レイヤー | 主要プレイヤー | 参入難易度 | ビジネスモデル |
|---|---|---|---|
| 原材料・部材 | Albemarle、Ganfeng Lithium、Umicore | 高 | 長期供給契約、採掘権確保 |
| セル製造 | CATL、BYD、LG Energy Solution | 非常に高 | 規模の経済、垂直統合 |
| パック・システム統合 | Tesla、Fluence、Wärtsilä | 中〜高 | EPC契約、モジュラー設計 |
| プロジェクト開発 | NextEra、AES、Giga Storage | 中 | IPP(独立系発電事業)、PPA |
| 運用・最適化ソフトウェア | Fluence IQ、Wärtsilä GEMS、AutoGrid | 中 | SaaS、レベニューシェア |
| 住宅・商業向け設置 | Sunrun、Tesla、地域インストーラー | 低〜中 | 販売・設置・保守 |
収益構造の変化:アービトラージからアンシラリーサービスへ
BESS事業の収益モデルは、単純な電力アービトラージ(安価な時間帯に充電し、高価な時間帯に放電)から、より高度なグリッドサービスへと進化している。これは本稿の投資仮説1を裏付ける構造変化である。
この収益環境の変化は、高度な運用最適化ソフトウェアとグリッドフォーミング機能を持つシステムの価値を高めている。チリなど一部の市場ではBESSにグリッドフォーミング能力を求める方向で規制議論が進んでおり業界動向、単純なコスト競争から技術的差別化競争へのシフトが加速する可能性がある。
4. ケーススタディ:成功事例の分析
事例1:Donut Lab × Verge Motorcycles —全固体電池の先行投入事例企業発表・第三者検証待ち
フィンランドのDonut Labは、2026年1月のCES 2026において、量産可能な全固体電池を発表した。同社のバッテリーは400Wh/kgのエネルギー密度と約10万サイクルの寿命を主張し、エストニアのVerge Motorcyclesに搭載される形で2026年Q1に市場投入予定としている。
革新性の主張:業界のコンセンサスが「2027-2030年の商用化」である中、Donut Labは2年以上先行して量産を開始すると主張。10分以下の充電時間、600km以上の航続距離、-30℃から100℃超の動作温度範囲という性能は、既存リチウムイオン電池を大幅に凌駕するとされる。
ビジネスモデル:同社は200社以上のOEMと開発・統合パートナーシップを締結と発表。Verge以外にも、WATT Electric Vehicles、Ahola Group、ESOX Groupとの協業を進め、モーターサイクル、商用車、軍事用途へと市場を拡大する計画。
検証ポイント(投資判断上の留意点):Donut Labの主張は企業発表段階であり、第三者による量産歩留まり、長期サイクル耐久性、実環境温度試験、安全認証取得の検証が今後必要。2026年Q1の実際の出荷実績と初期ユーザー評価が、技術的主張の信頼性を左右する。もし量産に技術的困難が生じた場合、歩留まり問題、コスト超過、納期遅延がリスク要因となりうる。
事例2:CATL Naxtra —ナトリウムイオン電池の大規模商用展開企業発表
世界最大のバッテリーメーカーCATLは、2025年4月にナトリウムイオン電池ブランド「Naxtra」を発表し、量産を開始した。2025年12月のサプライヤーカンファレンスでは、2026年を「ナトリウムとリチウムの双星時代」の幕開けと位置づけ、バッテリースワップ、乗用車、商用車、定置型蓄電の全セグメントでの大規模展開を宣言した。
技術的達成:Naxtraは175Wh/kgのエネルギー密度で乗用車500km以上の航続距離を実現と発表。中国の新国家規格GB 38031-2025(2026年7月1日施行)の認証を世界初で取得。-40℃から70℃の広範な動作温度範囲は、寒冷地市場での優位性を確保する可能性。
戦略的意義:CATLは「リチウムとナトリウムの並行発展」戦略を掲げ、用途に応じた最適な電池化学の使い分けを推進。グリッド貯蔵、低価格EV、商用車向け24Vスターターバッテリーなど、リチウムイオン電池では過剰スペックとなる領域をナトリウムでカバーすることで、市場全体の拡大を図る。
事例3:Base Power —住宅用蓄電池のグリッドサービス事業化統計メディア報道
テキサス州を拠点とするBase Powerは、住宅用蓄電池を「分散型グリッドアセット」として運用するビジネスモデルで急成長し、2025年秋に10億ドルのシリーズC資金調達を完了したBusiness Wire等。
ビジネスモデル:同社は垂直統合型事業者として、住宅用蓄電池の製造、設置、所有、運用を一貫して手がける。顧客には停電時のバックアップ電源を提供しつつ、同時にこれらの分散蓄電池を集約してグリッドサービス(周波数調整、需要応答等)に活用。電力小売事業者としても機能し、蓄電池運用益を顧客電気料金の低減に還元する。
市場インパクト:従来、住宅用蓄電池は「自家消費最適化」と「停電対策」が主な価値提案であったが、Base Powerモデルはこれに「グリッドサービス収益」という第三の価値を加えた。この複合的価値提案により、蓄電池投資のROI改善と普及加速が実現している。このモデルは本稿の投資仮説1(収益構造の変化)を実証する事例である。
5. 投資・ビジネス参入への視点
2026年以降の市場展望
エネルギー貯蔵市場は、2026年以降も持続的な高成長が見込まれる。BNEFは2026年に123GW・360GWhの導入を予測し、2035年までに年平均約23%のCAGRで成長すると見ている統計推計。
全固体電池のパイロットライン稼働(QuantumScape Eagle Line、各社0.1-0.5GWh規模)。CATLナトリウムイオン電池の大規模商用展開開始と発表企業発表。BESS市場で欧州がアジア太平洋に次ぐ第2の市場に成長見込み。
トヨタ、Samsung SDI等の全固体電池商用化目標時期。高級EV・高性能ハイブリッドへの初期搭載が期待される。ナトリウムイオン電池がグリッド貯蔵・商用車市場で本格普及する可能性。
全固体電池の量産化・コスト低減により普及価格帯EVへの搭載開始が期待される(技術・コスト課題克服が前提)。市場規模は一部予測で2兆ドル規模へ。
投資家への推奨アクション
① バリューチェーンの戦略的ポジショニング
原材料レイヤー:全固体電池の硫化物系電解質に必要なリチウム硫化物、五硫化二リン等の特殊材料サプライヤーに注目。SMM(上海有色金属網)は2026年からバッテリーグレード五硫化二リン価格のレポートを開始予定メディア報道。
システム統合レイヤー:グリッドフォーミング機能を持つ高度なBESSシステムを提供できる企業は、単純コスト競争から差別化される可能性。Wärtsilä、Fluence等の技術リーダーへの投資が有望。
ソフトウェア・運用最適化レイヤー:AI駆動の予測分析・運用最適化プラットフォームは、BESS資産のROI最大化に不可欠。資本効率の高いSaaSビジネスモデルで成長可能性が高い。
② タイミングに基づく投資戦略
全固体電池関連(長期視点):2026-2027年はパイロット段階であり、技術リスクが残存。しかし、QuantumScapeのNasdaq上場移転(2025年12月)、Factorialの上場(2026年中盤予定)メディア報道など、純粋プレイ企業への投資機会が拡大。バリュエーションは高いが、2030年の本格量産を見据えた長期投資として検討価値あり。
ナトリウムイオン電池関連(中期視点):CATLの2026年大規模展開発表により、関連サプライチェーン(正極材のプルシアンブルー類似体等)への需要が増加する見込み。中国市場へのエクスポージャーを持つ投資手段を検討。
グリッドスケールBESS(短中期視点):即座の成長機会。米国ではITC(投資税額控除)継続により、2025年末までに着工したプロジェクトは現行の優遇規定を享受可能(2026年からFEOC規制が段階的に強化)。欧州ではドイツが500GW超の接続待ちプロジェクトを抱え、78GWが承認済み業界分析。
③ 個人事業主・副業者の参入機会
設置・保守サービス:住宅・商業施設向けBESS設置需要は急増中。地域密着型のインストーラービジネスは初期投資を抑えた参入が可能。電気工事士資格と蓄電池関連の専門研修を組み合わせることで差別化。
エネルギーコンサルティング:中小企業向けにBESS導入のROI分析、補助金申請支援、最適システム設計提案を行うコンサルティングサービス。電力料金体系の知識とBESSの技術理解を組み合わせた専門性が価値を生む。
VPP(バーチャル発電所)アグリゲーター:分散蓄電池リソースを集約してグリッドサービスを提供するVPP事業は、プラットフォーム提供者とアグリゲーターの二層構造。小規模から開始し、地域の蓄電池オーナーとの関係構築から着手可能。
リスク要因と留意点
関税・貿易政策リスク:米国の対中関税はBESSコストに大きな上昇圧力をもたらす可能性。BNEFの高関税シナリオ(145%)では、2025-2027年の米国導入量が51-74%減少する試算統計推計。
技術成熟度リスク:全固体電池は商用化直前段階にあるが、量産スケールアップの歩留まり・コスト課題が残存。2025年に米国ナトリウムイオン電池スタートアップNatron Energyが破綻したように、資金力のない企業は淘汰リスクあり。
収益性圧力:テキサス等の市場ではBESS収益が2023年比で大幅に下落。プロジェクト開発段階での収益予測と実際の運用収益の乖離に注意が必要。2025年には米国で79GWの計画中バッテリー貯蔵プロジェクトがキャンセルされたとの報道あり業界分析。
FEOC規制リスク:2026年以降、米国ITCの適格性を得るためには、FEOC(懸念対象外国企業)関連の部材・材料を排除する必要がある。サプライチェーンの組み替えには時間とコストがかかり、一部プロジェクトの遅延・中止リスクがある。規制詳細は流動的であり、最新情報の確認が必須。
結論:エネルギー貯蔵革命への参画
2026年は、次世代バッテリー技術が「研究開発」から「実証・初期商用化」へと移行する重要な年である。全固体電池はDonut Lab/Vergeの主張どおりに量産が始まるか、あるいはQuantumScape等のパイロットラインが計画通り稼働するかが注目される。ナトリウムイオン電池はCATLの大規模展開発表により、2026年が本格普及の起点となる可能性がある。
投資家にとって、この市場は「成長性」と「不確実性」が併存する領域である。本稿で提示した3つの投資仮説を検証するため、以下のポイントを継続的にモニタリングすることを推奨する:
仮説1(収益構造変化)の検証指標:アンシラリーサービス収益比率の推移、グリッドフォーミング対応システムの導入率、主要市場でのアービトラージ収益の変動。
仮説2(特定用途先行)の検証指標:Donut Lab/Vergeの出荷実績、二輪車・特殊車両・定置型での全固体電池採用事例、乗用車向け量産スケジュールの進捗。
仮説3(サプライチェーン多様化)の検証指標:ナトリウムイオン電池の生産量・出荷先、非中国サプライチェーンでのバッテリー生産能力増強、FEOC対応状況。
個人事業主や副業者にとっては、地域密着型の設置・保守サービス、中小企業向けエネルギーコンサルティング、VPPアグリゲーション事業など、大資本を必要としない参入経路が存在する。エネルギー転換という巨大トレンドの中で、専門知識とローカルネットワークを武器に独自のポジションを構築できる機会は確実に広がっている。
次世代バッテリー革命は、単なる技術トレンドではない。エネルギーシステム全体の構造転換であり、その波に乗る者には大きな事業機会と投資リターンがもたらされる可能性がある。ただし、技術リスク・政策リスク・収益性リスクを適切に評価し、確定情報と企業主張を峻別しながら投資判断を行うことが不可欠である。
参考文献
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